映画「蛍火の杜へ」の感想


見に行こうかどうか迷っている間に公開最終日になっていた。最終日なため、もうパンフレットは売り切れていた。他のグッズは売っていたので手ぬぐいだけ買った。もっと早くに観に行けば良かった。二回は見たかった。夏の場面が多い話だから、暑さが残っている公開初期に観た方が臨場感があったかもしれない。


いい映画だった。雑誌掲載時・通常単行本・愛蔵版とあわせて最低三回は読んでいるが、イメージを保ちつつ映画用にやや話をふくらませていた。緑川ゆきの漫画は、モノクロでも季節ごとの色合いが感じられるのだが、脳で感じた色合いが概ね再現されていた。もうちょっと森の陰影は濃い方がよかったかな。
蛍の声は、台詞だと気にならないがモノローグだと少し引っ掛かりを感じた。原作でのモノローグからしてやや文語調だから、声で聞くと違和感あるんだろうか? だが声も演技も良かった。蛍かわいいよ蛍、なんかただ走ってるだけの姿とかがエロかった。


以下ネタバレあり



原作はギンと出会うところから始まり、ギンとの別れで終わっていた。映画は、ギンと別れて数年後の蛍が始めに映り、その蛍の回想としてギンとの交流が語られ、その後でまた冒頭の数年後の蛍に戻った。
履歴書がどうとか初めに母親と会話をしていたので、多分、この時の蛍は高校3年生で、就職活動をしに行ったんだろう。高校を卒業したら、ギンのいる街で就職したいと語っていたが、ギンがいなくなっても、ギンのいた土地のそばに暮らす事を蛍は選んだのか。
ギンが消える時、ギンの体から放たれる光は緑色で、消えてもうどこにもいなくなったというよりも、消えて森に還ったという印象を抱かせた。ギンとしての固有の心とかそういうものは文字通り消えただろうが(あるいは成仏?)、肉が分解されて土になるような感じでギンとしてのエネルギーというかなんかそういうのは山の一部になったのかもしれない。


ギンが蛍をがしがし木の棒で殴る描写を、映像用にやわらかくしたりしないで、ちゃんと容赦無い殴り具合にしているのが良かった(といっても、死なない程度の力加減にはしているだろうが)。蛍が殴られるたびに画面が真っ暗になるのに笑った。理由がある&ギャグっぽい表現とはいえ、幼児が木の棒で殴られるというのは不快に思う人もいるだろうからかなりマイルドにするか削られるかなと思っていた。
「恐ろしいガキんちょだな」という台詞が削られていたのは残念。


蛍が、人間にさわったら消えてしまうギンの事を思って「なにがあっても絶対私にさわらないでね」と言って泣くシーン、カメラが蛍の頭や背中を映していた。あれはギンの視点で、泣いている蛍の頭や背中を撫でて慰めたいと思ったが、さわれずに終わった、という事だろうか。髪はアウトかもしれないが、服越しだから背中はいけるような気がする。でも布越しでも一度さわることを許したら、どこかで歯止めが効かなくなって消えてしまう恐れがあるから自重したんだろうか。終盤の仮面越しのキスは、もういつ消えてもいいという心持ちだったからこそ出来た事だろうし。
ギンはお面ならさわっても大丈夫であるし、終盤を見るに服はギンの肉体の範疇ではなくさわってもいい場所のようだから、常に手袋をはめてポンチョなどの露出面積の少ない服を着用してればいいのになー。
夏は夏服、服は冬服と季節感を意識した服装をしているから、普通の人間のように温度を感じられる体なんだろうか。だったら夏にポンチョは厳しいか。


木から落ちるところでBGMのテンポが早くなるのが面白かった。BGMは全体的に、和風なものになるかと思っていたらそうではなく、ポップな感じだった。


よく足元が映っていた。蛍の歩幅が成長するにつれて変わっていっている事を見せたかったのだろうか。
幼い蛍はギンと共に歩く時、歩幅が狭いため、ギンの歩く速度にあわせると足の動きが忙しなくなっていた。だが中学生ごろになると、蛍とギンの足の動きは大体同じリズムになっていた。
中学に上がっても周りの友達たちは小学校の時と同じだから変わらない、と口では言いつつ、心の声では、成長した事でギンと目線が近しくなっているという変化に言及しているのが面白かった。


恐ろしいガキんちょ〜はそう重要な台詞ではないので削られても問題なかったが、中学生になった蛍の「ギンが本当は人間ではないかと あわい期待を持っていたけど」がなくなっていたのはなんでだろう。
妖怪と関わりを持っていても、ギン自身は見た目が人間そのままだったので、もしかしたら境遇が特殊なだけで本当はただの人間かもしれないと蛍は少し思っていたようだった。嘘つきな年上の兄ちゃんではなく、本当に人外で成長することのない存在だったという事への感情が出ていて、あれは好きな台詞だった。外見の年齢差が縮まって近づいていける事が、嬉しくもあり悲しくもありで、うちわで顔を隠して表情を見せない蛍の姿も良かった。
漫画だと、表情を見せないまま場面が映るが、映画だと祖父に声をかけられて起き上がっていた。声をかけられてから実際に顔を見せるまでの時間が長めだったが、祖父に変に思われないよう普通の表情に戻そうとしていた間だろうか。
ギンの声の演技がはじめ、感情豊かなただの兄ちゃんっぽい感じで違和感があったが、見かけもしゃべりもただの兄ちゃんっぽいからこそ、蛍はただの人間かもしれないと思ったんだろうな。声がイケメンなのはいいが、顔もイケメンになっていたのは気になった。漫画もイケメンっちゃイケメンだが、上まぶたが薄い感じのきらきらしさがあまりない顔立ちだったが、映画の顔はなんか可愛い。


蛍が部屋の中で寝転んで天井を見上げるシーンが二回あった(もっとあったかもしれない)。
一度目は祖父母宅、二度目は自宅。祖父母宅の天井は田舎テイストな木目。自宅のは種類はよくわからんが違ったタイプのものだった。
祖父母宅では天井を見ながらギンの事を思い返していた。自宅でも天井を見ながら、祖父母宅とは天井の姿が違うなとふと思い、祖父母宅のそばにいるギンの事を思ったりしたんだろうか。
祖父母宅は庭に池があるので、水面に反射した光が家の中まで入ってきていた。夏っぽい光景だった。
蛍と祖父が縁側でスイカを食べているシーンで、光が二人にまで届いていたのだが、光がもやのように見えて、スイカから湯気が出ているように見えたw ホットスイカか。


ギンがアイスを食べるシーンがあったのが衝撃だった。物食べたりするのか。
人外っぽさを強調するために、蛍がスイカ食べたりする一方で、「俺は食べたりとかできないんだ」と差し入れのアイスを断ったりするぐらいがいいんじゃないかと思った。
………と思ったが、そう言えば映愛蔵版書きおろしの話だと柿食べてたか。
マフラーをプレゼントするのは良かった。漫画でギンが雪を浴びるシーンは「冬の間は遠くはなれている二人も、同じように雪の下で日々をすごしている」という感じだったが、映画では、あそこでギンが蛍のくれたマフラーを身につけている事で「蛍が夏だけでなく冬でもギンを思っている頃、ギンも同じようにマフラーをつけながら蛍を思っている」という印象に変わった。


ギンのお面は自作の品かと思っていたが、赤ん坊のギンをあやすために妖怪たちが持ち寄ったものらしいというシーンが追加されていた。
赤子のギンは、自分を捨てた親を呼ぶように大声で泣いていたというが、ずいぶん元気そうな泣き声だった。てっきり、妖怪やら山神やらに発見された時には既に事切れるところだった、という感じかと思っていた。
妖怪たちはあやす事はできても食べ物を与えたりして育ててあげることは出来ずにギンを死に向かわせてしまい、そこで初めて山神にすがりギンを人外として生き長らえさせてもらったんだろうか。それとも、人間に捨てられて妖怪の領域に置かれていったのだから、妖怪のような存在にしてあげた方がいいだろうと、元気なうちから山神が改造(?)してあげたんだろうか。


映画は蛍が人と接するところ、ギンが妖怪と接する所が多めになっていた。
妖怪の数も増えた。大量の唐傘を1つずつ表して浮かべながら語りかける、女声の妖怪が好き。唐傘が一つ出るたびに一つの声が響き、それぞれの声が重なりあうのがきれいだった。
蛍は、友達がいないぼっちだから逃避としてギンに惹かれるわけではないし、ギンにも妖怪仲間みたいなのはいる。でも二人とも、周囲に仲間がいても、今はそばにいない互いのことに思いを馳せてしまうというのがよかった。


妖怪祭で、蛍とギンが互いの腕に布を結びつけて出かけるのが、入水心中に赴くカップルの姿のように見えて、微笑ましさと悲愴感が同居していて好きだ。
妖怪綿飴が宙に吹っ飛んでいたが、あれは食べ物じゃなくて浮かべて遊ぶもんなんだろうか。


ギンはあそこで子供にふれていなかったら、祭を最後に蛍には二度と会わなかったんだろうな。
うっかり蛍にふれられて消えてもいいという思いはあったが、蛍に「自分のせいでギンは消えてしまった」という罪悪感を負わせたくない気持ちがあっただろう。
ギンのお面を外した蛍が、お面の下から泣き顔ではなく笑顔を見せ、互いに満面の笑みを浮かべながら抱き合い、そのままギンが消え去り着物だけが残るシーン、綺麗だった。
あの台詞がないーと文句つけたところもあったが、「デートデスネー」「本望だ」「やっとお前にふれられる」などは声と映像で増幅されたというか、ちゃんとアニメ化してくれてありがとうという気持ち。
ギンのお面を抱く蛍に向かって語りかける妖怪の言葉は、イメージと違っていた。
一人の妖怪が、一対一で蛍に告げた言葉だと思っていたのだが、妖怪たちが集合して口々に語りかけるというシチュエーションになっていた。
小学校の卒業式を思い出した。先生が考えた別れの言葉を生徒たちが一文ずつ順番に読むというやつ。A「楽しかった!」B「運動会!」C「みんなで行った!」D「修学旅行!」みたいなの、言った覚えがある。蛍への別れの言葉はそんな感じになってたぞ。


ED曲は染み入る歌声だった。曲がかかりはじめてから、周囲の何名かがすすり泣いている事に気づいた。よく泣くタイプの人は、もろに涙腺刺激されるタイプの作品だろうなー。EDが終わって帰る時には、泣いてる人より笑ってる人の方が多かったが。満足したので自分もニヤニヤしていた。
ギン役の内山昂輝氏のファンらしき人が「内山くんイケメン」「内山くんもっと人気出てほしい」と仲間同士で語り合っていたw


映画始まる前に『体感型ビジュアルサウンドドラマ劇場企画「ヒカリ」』の予告が入ったのだが、ストーリーがなかなかドリーミングな感じだったり肩書きが「ささやきロードショー」だったりするので、そこで笑ってる人が多かったのも印象に残っているw

破壊力が高そうでヒカリ気になる。ドラマCDを映画館で流してみよう、って感じの企画なんだろうか。
世の中色んな企画があるもんだ。
蛍火はソフトが出たら改めてまた見たい。