小説版「輪るピングドラム 中」の感想

上巻はアニメの9話まで収録だったが、今回も9話分収録され、18話までの話が載っていた。
アニメはどんどんイカれてきているが(誉め言葉)、小説の方は上巻と同じく比較的落ち着いている。
刺激が足りないとも言えるかもしれないが、アニメの奇抜な演出や、やや過剰なギャグ表現が苦手な人は、小説のほうがあっているかもしれない。
15話から「運命を乗り換える」という概念が登場したが、小説版はアニメとは違う世界線での話だったりするんだろうか?


とりあえずアニメではまだやっていない小説先行分を読んだ。他はまだパラ読み。
以下ネタバレあり。




多蕗さんは黒い人だった。
多蕗の、「犯罪加害者は悪くても、その子供たちは悪くないよー」という温厚な態度は全て演技で、実際は高倉兄妹を憎悪しているという人物だった。
カエルでゲコゲコ言ってたのも演技だったら大した奴だ…


多蕗の手の傷は、多蕗自身がつけたものだった。
彼の母はピアノ好きで、ピアノに関する才能を持つ者しか愛さず、「才能がなかった」という理由でピアニストの夫と離婚した。多蕗は母に愛されるためにピアノに励み、眼鏡をかけるようになったのは譜読みのしすぎのためというほどだった。多蕗母は、2位以下の賞状やトロフィーを焼却して、多蕗にナンバーワンだけを求めていた。
やがて母が作曲家と再婚して産んだ多蕗の弟は、幼くてまだ荒削りながらも、多蕗の実力をいずれ超えるだけの可能性を持つ天才だった。それを見ぬいた多蕗は、弟がこのまま育ったら自分は2位以下の存在になり母から見捨てられると恐れ、ピアノの蓋で自分の片手を潰し、二度とピアノを弾けない手にしてしまう事で、「ピアニストとしての多蕗の時間を止めた」。



小説では多蕗が潰した手は左手。アニメでは右手。この違いには意味があるのかないのか。色々と細かな部分にアニメと小説で違いが見られるのだが、大まかな資料をもとに小説版を書いているから違いが生じるだけなのか、世界線が違うからなのか。
賞状を燃やすような多蕗母も狂ってるが、そこで手を潰すという方向に行ってしまう多蕗の思いつめ方も尋常じゃない。
アニメでは多蕗8歳時の回想シーンで既に手に傷があった。手を潰したのは8歳以前ということになる。子供が自分で自分の手を潰すって、アニメで映像として見たらより辛そうだ。直接的なグロ描写はないと思うが。



1番目のOPで多蕗のバックに鳥籠があったが、それがなんなのかも判明した。
「人間の友達は音楽の邪魔になるから、小鳥がちょうど良い」として多蕗母が与えた小鳥の事のようだった。
現在では多蕗の趣味は野鳥観察など鳥に関することのようだが、ピアノを失ってからも母親に与えられた事に縛られているという感じでもある。


手を潰した後に、気づけば多蕗は「子供ブロイラー」にいたが、そこを桃果に救出される。
子供ブロイラーはなんなんだろうなー。心理空間的なものなのか、高倉家の親たちとかが作ったような実在する建築物なのか、両者の複合型のような存在なのか。親に捨てられた子供たちが行きつく場所なんだろうか。
子供ブロイラーの「おとなたち」の発言が怖い。
「これからみんなを透明な存在にします!」
「怖くはありません。ただ、誰が誰だかわからなくなるだけです。きっと何者にもなれなくなるだけですよー!」
怖くあります! ああここらへんの下りアニメで早く見たい。このおとなたちの声はものすごく爽やかだといいな。


子供ブロイラーでは、集まった子供たちはみんな燃やされて「透明」になってしまう。
単なる焼却処分ではなく、子供たちは火力を上げるためのエネルギーなど、なんらかの利益を上げるために利用されているんだろうか?
多蕗もまた炎の中に突き落とされそうになるが、桃果に片腕を掴まれて助けられる。
その桃果の手を、おとなたちがバーナーで炙って妨害しようとする下りが痛い。「その手の皮膚はもう跡形もなく、滲んだ血すら焦げ付いて」って、うわああ
多蕗を助け上げた後に桃果は、二人共片手に傷があることに対して「お揃いだね」と言う。桃果さんはゆりを助けた時といい、言動がかっこよすぎる。幾原監督が言っていた、川上とも子氏が亡くなっていなかったら演じてほしかったキャラって、桃果なんじゃないかと思う。憶測にすぎないし、今の桃果役の人に不満は全くないが。他人の人生を革命しまくりな桃果にウテナがちょっと重なる。桃果さんがあまりにもかっこよすぎて人生が楽しい。生きてるキャラがこうだったら、やや嫌味に感じたかもしれないが、故人だからこそこれだけ遠慮無くスーパーガールとして描写されているのだろうか。日記の内容とかはやや変態くさいので、そこは欠点といえるか? なんにせよ桃果さんマジ救世主。


アニメ18話相当回にて、桃果の件で高倉兄妹を憎む多蕗は、陽毬を連れ去り、クレーンから吊るされたゴンドラの中に押し込み、ゴンドラを繋ぐワイヤーを切って陽毬を落下死させようとする。
駆けつけた冠葉に対する要求は、陽毬を助けて欲しかったら剣山を連れてこいというもの。冠葉が失踪したはずの剣山と現在でもつながっているのではないか、と多蕗は怪しんでいた。
冠葉が金をもらっている黒服の人たち=剣山の部下だという疑惑が持たれたが、明確な答えは出されなかった。
ワイヤーが何本も切られる中、冠葉はワイヤーを素手で引きとめようとして、摩擦による傷で手から大量の血を流す。描写が痛々しかったが、車に引きずられてもケロッとしていた実績がある冠葉なので多分大丈夫だろう。
結局、ゴンドラは落下したが、多蕗が陽毬を助けだしたので、陽毬は無事だった。どうやって助けたのかよくわからんかったが、冠葉がワイヤーを支えている間に、多蕗がゴンドラから陽毬を引っ張り上げたという感じだろうか?


多蕗が陽毬を助けたのは、陽毬と冠葉のやり取りを、子供ブロイラーでの自分と桃果とのやり取りに重ねたからではないかと思った。
陽毬と冠葉の会話は「これからは冠ちゃんは、自分のために生きて」「俺はお前のために生きたいんだ」。
多蕗と桃果の会話は「僕にはもう、生きてる意味なんてないんだ」「だったら、私のために生きて」。
ちょっと似ている。


アニメ15話相当回もパラパラと読んだ。
ゆりが父親から受けていた虐待(?)の詳細などは小説でもよくわからなかった。
「左腕の次に、父がきれいに直してくれたのは、右足だった」という一文を見るに、ゆりが巻いていた包帯は「心の傷を視覚的に表現したもの」ではなく、物理的に手足をどうこうされていたようだった。
ゆりが苹果をレイプ(?)しようとした描写について、「ゆりはレズビアン説」「ゆりは女装した男説」「ゆりは両性具有説」など色々な説が出ていたが、そこら辺も特に決め手になる描写はなし。素直にレズだと思っておけばいいだろうか。てっきり女装男or両性具有で、苹果が妊娠させられてプロジェクトマタニティ達成かとあの辺りはアニメで見てひやひやしたものだった。


まだ読んでいない部分もじっくり読みつつ、アニメと見比べたい。

上巻の感想→http://d.hatena.ne.jp/growfat/20110707/1309997507