小説版「輪るピングドラム 上」を読んだ。

「せっかくのオリジナルアニメなのに先に小説版を出したら展開がわかってしまって面白さが半減」……といった意見も発売前に見かけたが、読みながらむしろ楽しみが増した。文章だけで語られるシーンの数々を、いかに映像化しているのか期待が高まる。
上下巻かと思ったら、上中下巻だった。表紙裏にはペンギン3号がいた。三冊出るという事は、次巻以降に1号2号が出るのだろうか。
著者の高橋慶氏は新人だそうで、文章がひどかったらどうしようかと思ったがわかりにくさはなく面白かった。装丁が可愛く字も大きめだが、ふりがなはあまりふってないし小さなお友達には向かない。


以下ネタバレ感想




CMから近親相姦展開があるのではと想像していたが、見事に冠葉が近親相姦枠だった。
寝てる妹にキスするとかアウトやでえ……と思っていたら、苹果さんの奇人っぷりが匠の業すぎてぶっ飛んだ。
登場人物たちがなかなか奇天烈、人物背景にも世界観にも謎が満ちていて続きが猛烈に気になった。


余命幾ばくもない妹・陽毬を思いやる双子の兄たち・冠葉と晶馬が、最期の思い出にと妹を連れ立ち水族館へ。陽毬はそこで倒れた後に亡くなるが、水族館で得たペンギンの帽子をかぶりながら「生存戦略ーーーッ!」と叫んで起き上がり甦る……という冒頭の部分は、事前に書店サイトで書誌情報としてネタバレされ、後に削除されたものと同じ。


生存戦略」と叫び陽毬に憑依(?)している者は一人称が妾(わらわ)w
普段は普通の陽毬の意識があるが、ふとした時に顕在化する。陽毬の声優は新人だそうだが、演じ分けを上手く行ってくれるといいな。試写会を見た人たちからは、特に声があわないといった感想を見かけなかったので大丈夫かな。
妾さんは何故か陽毬を延命してくれているが、無償ではなくその「代償」を求めているらしい。その代償とは「ピングドラム」らしいがそれがなんなのかはよくわからん。苹果が所有しているらしいが。ズンドコベロンチョを思いだす。
妾さんが登場する時は、その場がレースとフリルのあふれた宇宙空間みたいな感じになるそうだ。どんな映像表現になるか楽しみだ。


CMで読みあげられていた印象的な言葉が小説中にも出てきた。
「あの時から、僕らは何者にもなれない〜」は晶馬のモノローグ
「きっと何者にもなれないお前たちに告げる」は妾さんの台詞
「運命も本能も、遺伝子の命令さえも無視して〜」は冠葉のモノローグ
「貴方の頭の中の幸せを私に押しつけないで 私は人生に決着をつけたいの」は出てこなかったが、多分苹果の台詞になるだろうなー。




各キャラについて。
晶馬は、王子っぽいと配信などで説明されていたが、キラキラモテモテなわけではなく、そういう面は平凡。双子の兄の冠葉の方がモテモテポジション。電車内で出会った女の子にも冠葉と比べ「ちょう空気」と言われていた。
ウテナの幹みたく、優等生然とした丸い口調を想像していたが、ほどほどに荒っぽい話し方で普通の少年っぽい。晶馬は普通の子で突出している部分は家事能力ぐらい、冠葉の方が色々特殊って感じかな。しかし、晶馬もまた何か特殊な背景を抱えているらしく、過去の何かへの罪悪感を持っているらしい。「脛に大きな傷がある」「大きな治らない傷」と語っている。初め、物理的に怪我があるのかと思ったが慣用句的な意味だろうか。
小説は三人称と各キャラの一人称で書かれているが、大部分が晶馬の一人称だった。上巻だけ読んだ限りでは晶馬が主人公、といった感じがした。
以前アニメ雑誌に出たキャラ説明に「妹を溺愛」と書かれていたが、あくまでも兄としての愛し方で、冠葉のような近親相姦っぽさはなかった。人工呼吸でキスをするなど、苹果との方にフラグが立っている。
上巻終盤でとんでもない事になったが、まさか晶馬も妾さんみたいなのに憑かれるんだろうか。


冠葉は、まだ事情があまり語られない。中巻以降で目立つキャラだろうか。
軽い調子で女性をナンパしたりする一方で、必要なだけの女性のストックがある時は、告白してきた相手をこっぴどくふったりする悪辣イケメン。肉体関係も含む男女交際を複数人同時進行でやっては捨てるを繰り返す一方で、妹の陽毬に恋愛感情を持っている。思いは告げられないが、寝てる陽毬にキスをしたりする。このキャラの声がジャイアンなのか……ゴクリ。
高倉家は死別したのかなんなのか、両親不在で子供三人で暮らしている。父方の伯父が世話をしてくれているが、それでも家の維持にはお金がかかる。そのお金を冠葉は謎の人物から調達しているが、明らかにきなくさい。気になる。


陽毬もまた、活躍はまだまだこれからか。
「お前たちの運命の至る場所」から来たという謎の妾さんに憑かれてる(?)が、本人は自覚なしで、兄たちからもその事は秘密にされている。
妾さんのおかげで健康になったものの、まだ学校に通ってはおらず自宅待機の日々。兄二人は16歳だそうだが、陽毬は一つ下の15歳くらいなんだろうか。入院生活続きで休学しているだけなのか、どこかの学校に在籍はしてはいるのか、どちらだろう。
妾さんの宿る(?)ペンギン帽子を手放すとまた死に至る難儀な体だが、買い物に出かける時はペンギン帽子を持参しなくても問題ないようだったので、「距離が遠ざかると危険」なのではなく「所有権を放棄すると危険」なのだろうか。
ペンギン帽子は「運命の花嫁に捧げる花冠」とも呼ばれていた。陽毬=運命の花嫁なのか? 運命ってなんぞや? ああ続きが気になる。
病弱で親がいないだけでも大変そうなのに、どうやらかつて仲の良かった友人たちからいじめられるようにまでなっていたようで、陽毬さん薄幸の美少女ってレベルじゃないぞ。不思議な出来事の最も当事者であるはずなのに最も蚊帳の外のようなポジションでもあるし、不憫だ。幸せになってほしい。


苹果は、キャラデザインを見て健康活発サバサバ少女、だけどミステリアス、といったキャラを想像していたが、病んでるストーカーだった。
亡き姉の死を引きずる親のために、姉の桃果に成り代わろうと、桃果が書いていた未来日記(?)になぞらえた行動をとり続けているという子。晶馬は、病弱で死にゆく妹を思い「運命」を繰り返し否定しているが、対称的に苹果は「運命」を肯定し続け、未来日記に記されている事柄を運命としている。
桃果は同級生の多蕗という男性に恋をしていたので、苹果もまた姉に代わって多蕗に恋をしており、多蕗の部屋の床下に潜んで「一つ屋根の下にいる」と言い張ったり、盗聴したり、第一線のストーカーっぷりを発揮している。最終目的は多蕗の子供を孕む事だそうだ。怖い。
多蕗は冠葉と晶馬が通う学校の先生でもあるのだが、冴えない人物として描写されている。だが声優が石田彰氏と聞いただけでとてもうさんくらいキャラに感じる。眼鏡でネクタイが曲がっている生物教師だそうだが、絵的にはイケメンになるのだろうか。



その他
・ペンギンとどうやって遭遇するのかと思ったら、クール宅急便で送られてきたwww
・ペンギンはあまり地の文で描写される事がなかったが、アニメだと話に関わらない所でも無意味に背景でくるくる動いてそうで楽しみだ。
・冠葉と晶馬が通うのは男子高の都立外苑西高。りんごが通うのは女子高の櫻花御苑。校名は東京の地名っぽい。
東高円寺、和田塚公園、とか地名が出るが田舎者にはあまりピンとこない。都内在住の人だとより楽しめるかもしれない。
・眞悧(まさとし)という謎の人物が、陽毬を不思議な図書館に案内し、陽毬の思い出が記された本を朗読する。図書館内の螺旋階段を下るにつれ、本の内容は、忘れたくなるような陽毬にとって辛いものになっていく。螺旋階段は物理的に下へと降りて行く事が心理の深層に踏み込んでいく事とイコールになっているような描写。
・CM第6弾に登場した声優の小泉豊氏は眞悧役だろうか? 小泉氏はB型H系の「竹下の彼氏」の役しか知らないがいい声していた。竹下の彼氏以外にもモブの役もしていたが、いい声すぎて「竹下の彼氏がまぎれてる!」とすぐ気づけた。
・多蕗の婚約者である時籠ゆりの口癖は「ファビュラス」。多蕗の趣味は野鳥観察、そしてゆりの名前には「籠」の文字……というのがなんか危ない想像をさせる。ゆりの声優は能登麻美子氏。
・こそピンで出ていた武器っぽいパチンコが気になったが、どうやらあれで謎の野球ボールサイズの物体を投げつけるようだ。そのボールを頭部にあてられると、一部の記憶が消失するらしい。
・ボールを投げつける者は夏芽真砂子という謎の美女。夏目雅子となにか関係あるのか? 声優は堀江結衣氏。B型H系の竹下役の方でもあるw
・夏芽は敵キャラっぽい感じがする。彼女の口癖は「いやだわ、早くすり潰さないと」。なにをすり潰すんだ。怖い。
・妾さんは口調が大変荒い。雌豚ビッチとか言いよる。「生存戦略ーー!」と叫びながら現れ、最後にも「生存戦略しましょうか!」と叫ぶのが恒例。くせになる。アニメで聞くのが楽しみ。
・苹果は、姉の桃果がカレー好きだったので、姉の月命日の20日は必ずカレーをつくっている。何月かは不明だが、苹果の誕生日も20日で、祝うべき誕生日のたびに姉の死を思い出させるカレーを食べるという風習を父は嫌がっていたそうだ。豚肉をすり潰したりんごに漬け、調理の最後にりんごジャムを一匙入れるという苹果のカレーのつくり方を真似したい。カレーをつくるところの文を読んでいたら無性にカレーが食べたくなった。アニメ第4話タイトルの「そして華麗に私を食べて・・・」はカレーにかかってるんだろうな。


試写会では「銀河鉄道の夜」ネタがあったそうで、そこから冠葉=カンパネルラ、晶馬=ジョバンニ説がわいているようだ。
銀河鉄道の夜は読んだ事がなく、キャラ名ぐらいしか知らないのだが、あの特殊な名前は元ネタがあってもおかしくないのですんなり納得いった。
宮沢賢治はりんごをモチーフにした詩をたくさん書いているそうで、苹果の元ネタもそこか。苹果は中国語の表記で、中国語の読み方だと「píng gu」になる。つまりはピングー、ペンギンにつながる。一つ一つのネーミングにすごくこだわっていそうだ。
一番早い所は本日の26:10から放送開始。楽しみだ。