「鋼の錬金術師 プロトタイプ」を読んだ

「モモンガ父さんの話」ではなく「砂漠にXXXをつくる話」の方だった。


エルリック兄弟の外見や過去は本編そのままだが、言動は違っていて、「番外編」ではなくあくまでも「プロトタイプ」であった。本編エドとプロトタイプエドは似て非なる感じだ。
エドがアレをアレしたり、アレに手を染めたりと、本編のエドのポリシーはここでは適用されない。
でもまあ、そこに至るまでの積み重ねが違うので、本編のエドも、色んな出来事を越える前に同じ事件に出くわしていたら同じ事をしていたかもしれない。
そこら辺以外にも、終盤のキザな台詞がちょっとエドらしからぬwww いや、なんだかんだで本編でもキザ台詞は色々言ってた気もするが、ちょっと笑ってしまった。相手口説いてるのかと思ったw


一番びっくりしたのはまさかのあの人の登場だった。
エルリック兄弟以外は全員ゲストキャラだけで、ウィンリィとかマスタングとかは出ないだろうなーと思っていたら、予想外の人が登場した。エルリック兄弟以上に、本編とは異なるキャラになっていた。本編とはわざと正反対のキャラにしているようだった。


以下はネタバレ。





まさかのロゼさん登場。
外見はそのままで名前も同じだが、性格が全然違う。
兄弟が立ち寄った店の娘で、気候の悪さと圧政に苦しみながら、神様なんていないと望みなく生きている少女。
神様にすがりついていた本編ロゼと正反対。性格も、より気が強い感じだ。店の主人は父で、本編ロゼのように天涯孤独なわけではない。



・あらすじ
エルリック兄弟は砂漠化の激しい街・クロワトールを訪れる。
かつてはオアシスがあって栄えた街だったが、旱魃により植物は枯れ動物は死に、住民は疲弊していた。
一帯を統治しているアルゼン少佐は重い税を強いており、絶望的な状況の中でロゼは、神様などいないのだと言う。
街の人々は、兄弟が錬金術師である事を知り、街を助けるために水を錬成してくれないかと頼み込む。
「一千万で引き受けよう」とエドは莫大な報酬を要求し、街の人々は応えられるはずがなく諦めるしかなかった。


有名な錬金術師が街にいると聞き、アルゼンは自宅に兄弟を招いた。
「賢者の石」を所有するアルゼンは、それを用いて自分を不老不死の身にするよう兄弟に命じた。
今までにも何人もの術師に試させていたが、いずれも術者が未熟さのためリバウンドによって死んでしまっているのだという。
アルとロゼを人質として奪われ、エドは渋々応じた。
不老不死にし終えた後は賢者の石をもらいうける事をも条件にし、エドはアルゼンに錬金術を行使した。
その結果、アルゼンの肉体は、肌を斬りつけた剣が折れるほどの強靭さを持つようになった。どんな攻撃も受けつけないまさに不老不死の身となった。
「不老不死」を独占するためにアルゼンは兄弟を殺そうとするが、錬金術機械鎧を駆使した体術を用いるエドを相手に苦戦する。
なんとかアルゼンはエドを追い詰めるが、急所を狙おうとしたところで彼の体は急に動かなくなってしまう。
エドの先ほどの錬成によって、アルゼンの肉体は少しずつ鋼となり硬化していたのだった。
機械鎧のネジの一本でも混じってしまったからかもしれない、とうそぶくエドの前で、アルゼンの全身は完全な鋼と化し、そうなる事で彼はある意味、朽ちず老いずの不老不死を達成した。


アルゼンがそうなった事で、圧政はなくなったが、乾きによる街の現状は変わらなかった。
街を思い泣くロゼの涙をエドはぬぐい、守りたいもののために流す涙は千金に値すると言って、その涙を「報酬」として受け取った。
それからしばらくして、街の人々がロゼのもとに駆けつけると、そこには広大な湖が広がっていた。
エドは、アルゼンから得た賢者の石の強大な力を用いて、ロゼの涙から湖を錬成したのだった。
神様、とつぶやきながら、湖に足を浸したロゼはまた涙を流す。
街の人々の賑わいから離れた場所で兄弟は賢者の石を用いて元の体に戻ろうとしたが、石は湖作りでエネルギーを使い果たしたため、消滅した。
ぼやきつつも兄弟はまた新たな街へと旅立っていった。


湖をつくる話を考えたことがある、ってのはなにかの作者インタビューで書かれてたそうだが、もっと小さいものを想像していたので、水平線が見えるレベルの広大さにはテンション上がった。波打ちまでしている。
湖の背景には夕日が差していて、その中で涙を流すロゼの姿は、本編ロゼと重なっていた。
本編ロゼははじめは神様に心酔し、夕映えの中で神様にすがるのではなく現実を生きる事を選んだ。
プロトタイプロゼは逆に、はじめは神様を信じていなかったが、夕映えの中で神が与えてくれたような奇跡に涙した。
「暗い状況にいたロゼがエルリック兄弟によって救われた」という点は共通しているが、他の部分は意図的に対にさせている感じなのが面白い。
涙から錬成したって事は塩水なのかと思ったが、水属性のものからは水属性のものが作れるってだけで別に関係ないか。賢者の石パワーもあるし。真水の方が使い勝手はいいだろう。


アルゼンが硬化するところはグリードを、エドが賢者の石を人間ポンプしているところはキンブリーを思い出させたw
エドがあっさり賢者の石を使っていたり、アルゼンを殺したような状態なのは、本編でのエドのポリシーを知っているだけにびっくりした。
賢者の石の製造方法についてプロトタイプ内ではふれられていなかったので、もしかしたら本編とは違う成り立ち方をしている物質なのかもしれないが。
アルゼンが本性を表わして襲いかかる前に、既にエドは完全硬化する術をかけていたようだが、圧政を強いている人物であるから、最初から殺すつもりで近づいたんだろうか。
「人命を奪ってしまった」とかそういう罪悪感一つ見せず「これがあんたの望んだ結末だ」と言いきったエドは、ダークヒーローといった風情で格好いい。朽ちない体を求めたアルゼンが、違った形で本当に朽ちない存在になるというのも皮肉が利いている。
色んな事件に出くわすたびに悩み、賢者の石を使ってはだめ、人を殺してはだめ、と禁忌を自らに課していった本編エドが好きって人は、さっくりアルゼンを殺しちゃったプロトタイプエドは受け入れ難いかもしれないが。


死んだ死んだと書いてはいるが、あのアルゼンは完全な意味で死亡しているのかは怪しい。ファンタジー物では、魔法で石化された人物が、解除魔法によって再び元に戻るというパターンはよくあるので、再び錬金術を行使すればアルゼンも元に戻るという可能性もあるかもしれない。でも、硬化しながらのアルゼンのあの怯えっぷりは死への恐怖を感じているからこそのものだろうなと思えるし、どうなんだろう。エドの台詞は「死なず老いず」ではなく「朽ちず老いず」だから、ほぼ死んでるようなものだと考えた方が妥当か。


アルゼンに術を行使する際、エドが手のひらの上にダークマターのような物を浮かべていたがあれはなんなんだ。手のひらに太陽つくっていたお父様を思いだす。
賢者の石を使いまくれる分、小さな食卓用ナイフを巨大な剣に錬成したりと、錬金術の使い方が派手だった。そういう錬金術の描写なども、本編とは異質な感じだった。


少女の涙をぬぐいとって、それを「報酬」とか言っちゃうエドの常軌を逸したキザっぷりがツボだったw
あと、かなりどうでもいい事なのだが、アルゼンも名前を略したらアルだな……