「嘆きの丘の聖なる星」を見ての感想

手のひらからレーザー光線を発しまくって戦う映画だった。
二回連続で見て、一回目によくわからなかったところは何かを見落としただけなのかと思って注視したのだが、やはりよくわからんかった。読解力が足りなかっただけなんだろうか。後で他の人の感想を見て回ろうと思う。
全体的に「怒っちゃいないけどがっかりしてるよ!」と「三つ目がとおる」の和登さん風に言いたくなる。
あれだけ突きぬけられると「なんでこんな事になってんだ!」といった怒りは逆にわいてこなかった。これはこれで面白いような。


幼少ジュリアが可愛かったし、個々のオリキャラたちはそれなりに良かったのだが、キャラを出し過ぎてさばき切れなかったという印象。感情移入ができなかった。
ストーリーも、詰め込んでいるわりに説明不足。どんでん返しを盛り込まず、もっとシンプルでストレートな構造にすればまとまったんじゃなかろうか。
作画は、よく動くのはいいのだが、線が太すぎる。二回とも前の方の席で見たせいで目立ったんだろうか。動き優先で絵が崩れる事も厭わないシーンと、それ以外のシーンとでは書きわけをしてほしい。泣き叫ぶようなところなど、顔がアップの見せ場は、画の枚数を増やす事よりも繊細な表情変化にこだわった方が情緒があった。


以下はネタバレなど含む。




・ジュリアの兄関連
予想通りメルビンはジュリアの実兄……と思いきや、ジュリアの兄の顔面の皮を錬金術で移植した偽者という超展開だった。黄昏の少女でも、錬金術で顔面を整形しているキャラはいてぶっ飛んだ設定だとは思ったが、ひっぺがした皮をそのまま張りつけるってどうなんだ。手のひらレーザー光線で容易にはがせるようだが。
実兄の正体が明かされるところがよろしくない。ろくに関わってこないでずっと座って待機したままだと思っていたら、なんかいきなり現れて俺はお前の兄だぞー世界を変えるぞー変えるの手伝わないならお前も殺すぞーと唐突すぎる。また、実兄が座っている部屋のシーンは動きの少ない絵を使いまわしていて手抜きだった。
偽者が存在してどうこうではなく、過去の出来事から病んでしまった実兄がジュリアと対立するとかそういう話にしておけばよかったんではないだろうか。説明に時間を取り過ぎて実際にはキャラがろくに動いていない。
「実は実兄というポジション」以外、それまで実兄には特に役割が与えられておらず、「この人が実は兄でした」と明かされても、へえそうなのかとしか思えなかった。
偽兄も、皮かぶる前の正体はこの人でしたーと言われても「誰だっけ」という感じで驚きがなかった。二回目の視聴で、序盤に出ていた事に気づいたが、特に印象に残る行動もしていない「ただ登場しただけの人」だった。
ただの兄妹愛じゃ物足りなくなったから色々ぶちこんでみたらよくわからないことになってしまった、という印象。


・ジュリアとアルの関わりについて
最後、再び旅立つ前にエドは、気を利かせるようにアルの背中を押してジュリアと二人きりで話をさせる。だが、そこに至るまでに特にアルとジュリアが仲を深めたように思えなかった。
命を何度か助けているというのも理由としては十分かもしれないが、しっくりこなかった。
アルは一度は黒のコウモリたちに囚われていたのだが、そこでもっとジュリアと仲良くなるエピソードを挟んでおいてほしかった。
初めは戦士として戦う姿を見せたジュリアが、一方で兄との再開に涙する弱さを見せ、かと思ったら子供たちに先生としてふるまう母性的なところも……と、ジュリアの魅力をアルに伝えたりするところがもっとあればよかった。
アニメ雑誌などに載っていた、ジュリアが子供たちの先生的存在であるという設定は台詞でちょっと触れられるのみで実際の描写が欠けていた。ジュリアはある程度の年頃になるまでは、コウモリの人たちよりもかなり恵まれた生活を送っていたようで、比べれば教養ある人物だったのだろうし、先生役をしているところが見たかった。


・アレックスについて
マスタングの執務室に入ってきたアレックスが、ウィンリィの存在に気づき、彼女に向かってウインクする仕草が可愛かった。若年の者を労わり、ちょっかいを出すのが好きなアレックスらしい、優しくておちゃめな場面だった。このシーンが一番好きかもしれない。
だがまさか、アレックスの登場シーンがあそこだけだとは思わなかった。なんてこったい。駆けつけて戦うのかと思っていたのだが。第三弾キービジュアルに載ってたりしたのはなんだったんだ。


・ジュリアとミランダについて
ろくな荷も持たずに放りこまれたジュリアを庇護した人物はミランダたちであるらしいが、そこら辺の回想がほしかった。ジュリアとミランダの絆の描写がほしかった。ミランダはミロスの民のためにがんばっている人だという事はわかったが、キャラの掘り下げが足りないので死亡シーンも悲しくならなかった。いい乳してるキャラだなーというぐらいの印象しか残らなかった。
ミロスの不死鳥国旗に特に意味がなかったのが残念だった。黒コウモリを名乗るミロスの人々が、「今は暗い場所でどっちつかずのコウモリのようでいても、いつかは独立の悲願を果たして輝ける不死鳥になるぞ」みたいな事を宣言するシーンへの布石だろうかと妄想したが、特にそういう事もなかった。


マスタングの出番少なすぎ
歩いてるシーンと列車に乗ってるシーンが大部分ってどういうことだってばよ。戦地に来たかと思ったら「ぬっ」「なにっ」といった事を言いながらくるくるしているだけで戦いに加勢すらしなかった。ラスト戦で腹破れた直後の状態とはいえ、手袋をきゅっとしめる仕草があるたび「くるか?」と思ったらこなかった。
ジュリアの治療のために、傷口を焔で焼いて塞ぐシーンが唯一の見せ場だが、4秒ぐらいしかない上、そのシーンにはマスタングが画面に映っていなかった。
映画雑誌でエドと共に表紙を飾っていたのにまさかこんなに出番が少ないとは思わなかった。エドも出番が少なかったが。エド不在の間に話が進んだ後、現れたエドが「オレ主人公だしとりあえずかっこいい台詞言っとくわ」とばかりに叫んでいるだけだった。


・後半のメタモルフォーゼについて
偽兄が全身赤ペンキ人間になったのはなんなんだ。あそこからの下りは絵がギャグすぎて笑いがこみあげた。
ジュリアが賢者の石を飲みこんだら変身したのもなんなんだ。目の色が赤くなったりまつげ増量したりとよくわからない。あそこの髪のなびきなどはもっと細かに書き込んだ絵だったら、怖い雰囲気が出てよかったのかもしれないが、粗すぎる。
賢者の石を飲みこむシーンとかはきれいだったのだが。


(7/3以下、追記)
「メタモルフォーゼについて」のところで誤文を書いていた。ジュリアが飲んだのは「賢者の石」ではなく「鮮血の星」だった。
人間の生命エネルギーを固体化した物同士ではあっても、賢者の石は人間の魂を、鮮血の星は血液(血肉、体すべて?)を原料としているっぽい。
成り立ち以外での両者の違いがよくわからなかった。通常の賢者の石ではなく、ホムンクルスの核としての賢者の石を得た者は、拒絶反応を示して死に至る事もあると本編では描かれていたが、そのような副作用がなく変身して力が増大するだけの星はより優れたものなんだろうか?
ジュリアが星を飲みこむところ、どうして「飲みこめば力を得られる」という結論に達したのかがわからなかった。星に対する説明が足りなかった。エドの「星に心を食われる」という叫びも浮いていた。心を食われて一時的にダークサイドに落ちたジュリアがエドと戦う、それぐらいの展開があればよかった。星は力だけでなく、飲みこんだ時の感情まで増幅させるとかで、偽兄らへの憎しみをふくらませすぎたジュリアが、その憎悪をエドへも向けてしまうとか。星を飲む事へのデメリットがなかったため、エドの叫びが空々しく終わった。全体的にエルリック兄弟が目立たなかった。
偽兄たちは、星がなくても等価交換を無視したようなレーザー光線を何度も発していたので、星を得てからのジュリアの戦闘力に「星を得たからこその特別さ」が感じられなかった。そこに至るまでのシーンに抑えを効かせる必要があった。ラストバトル以前の戦闘描写一つ一つが自己主張をしすぎていた。星を得たからこその力が際立つ事がなかった。
本編でも終盤、賢者の石のバーゲンセール状態になったりと、石の希少性が減じたが、石を持つ者と持たない者の違いは等価交換の必要の有無で描写されていた。だが、ミロ星はその違いがなかった。元はあまり錬金術を使えなかったジュリアがマグマを封じられたのは星あっての事ではあるのだが、その他の錬金術師たちだけで十分やれそうな描写だった。「星の力を得てはじめて凄腕の術者たちに並ぶ」ではなく「星の力を得てそれらの術者さえも超える」ぐらいに、星に特別性を持ってほしかったが、星がなくても周囲がすごすぎる。
既存の世界観に新しい固有名詞を持ちこむのならば、説明をもっと丁寧に行ってほしかった。
映画の尺にあわせるために無理矢理削ってしまった部分があったりするんだろうか。原作がある物語を映像化の尺にあわせて削ったり伸ばしたりしたのではなく、映画用に書き下ろしたシナリオであるのだから、もうちょっとがんばれたんじゃないだろうか。
(/追記)



不満点は多数あったが、見ていてイラッときたりはしなかった。何がなんだかよくわからなかっただけだった。
嫌いではない。ただ、もったいない。