27巻の感想 2

27巻を読んでいてまず初めに思ったのは、内容について云々より「単行本って読みやすいなー」という感動だった。
厚くないし重くない、これはかなり重要な部分だ。


全編についてちょこちょこ触れていこうかと思ったがお父様についての感想ばかりが浮かんできた。


メイちゃんは血まみれだと二割増し可愛い。マスタングは目を閉じていると二割増しかっこいい。異論は認める。
メイちゃんについて、別に猟奇趣味とかはそれほどないと思うが、血まみれである事によって戦士らしさとけなげさが出るというか。黒く表現される血によって画面がしまるからというか。血まみれで泣いているとより可愛くてこまる。なにか変な道に目覚めさせられそうな可愛さ。
マスタングについて。目を閉じているとなんかこう、キリッとする。普段童顔であるマスタングには足りない渋さのようなものが感じられる。

メイちゃんの見せ場について

アルが自分の魂とエドの右腕を等価交換するところについて。
経緯は長い連載の間で色々と変わったかもしれないが、右腕を戻すための方法としてこの場面自体は初めから構想しており、ここでアルの頼みごとを聞く存在が必要なのでメイちゃんをつくった、と荒川氏はインタビューで言っていた。「メイちゃんが」というよりも「遠隔錬成のできる錬丹術師が」という言い回しだったかな?ややうろ覚え
ここにメイちゃんがいなければ、鎧の亀裂がまわってアルの血印は壊れ、アルは何も成さずにただ自分の肉体に戻るだけになっていた。メイちゃんがいたから、肉体に戻るという展開は同じであれど、最後に、エドに戦うための右腕を戻すという、意味のある行動ができた。
アルにメロメロなメイちゃんだが、彼女はその存在自体、アルのために作者によってつくられたもの(エドのため、一連の展開全てのためともいえるが)だが、メイちゃんがアルにメロメロになるという展開も、最初から考えていたのだろうか。あそこでああするのが多分最善であったと思うが、メロメロだからこそああいう役割を持たされた事はメイちゃんにとって辛かっただろうなー
いやでも、「こんな事頼めるの君しかいない」は、アルとしては「遠隔錬成できるの君だけだし」という感じかもしれないが、メイちゃん的には熱いプロポーズに聞こえたかもしれないw

お父様の最期について

お父様の最期は容赦がなくて悲しい。お父様は全ての感情を切り離し、子供たちを生んだというが、ホーエンハイムと対峙してあれこれ言われた途端に怒っていたようだし、実際は「切り離したつもり」なだけで感情は失われていなかったのだと思う。
ポーカーフェイスどころか獣みたいなわけのわからない状態になった末に倒されるというのは非常に惨めだった。
お父様の第一目標はフラスコの中から出る事だった。でも結局、お父様は自由に歩き回れる体を得たにも関わらず、ほとんどを引きこもってすごしていた。引きこもりながら色々とやる事があったからではあるが、お父様は、家族のようなものであるホーエンハイムからの拒絶がけっこう堪えていて、引きこもりはそのせいでもあったんじゃなかろうか。
そんなお父様が、ナチュラルボーン人間であり、ホーエンハイムのちゃんとした家族であるエド素手で殴られまくるというのはものすごく屈辱的。
ホーエンハイムはお父様のもとを去った日について「怖くて逃げた」と言っていた。逃げずに向かい合っていれば、お父様にはなにか変化があったんだろうか。でも逃げたからこそホーエンハイムは数百年後にトリシャと出会えてエドとアルをもうけられた。if展開は幾多にあれど全員幸せになりますという展開は妄想の上でも難しい。
お父様がこの先生き残るにはどうすればよかったんだろうなー もう生まれ方からして不自然な存在だから遅かれ早かれ消滅する以外に道はなかったんだろうか。同じように不自然な存在である、キメラのおっさんたちやプライドの生存に、少しは希望は見えるが。でもプライドはともかく、キメラおっさんたちはベースとなる人間部分も動物部分も、一応は現実世界に存在するものだから、わけのわからないところからやってきた異星人X並に場違いな存在であるお父様とはまたケースが違うなー


お父様の子供たちの中でも、お父様が真っ先に排出した、かつてのお父様そっくりの姿を持っていたプライドだけが残されるというのがなにやら切ない。
鋼の錬金術の大きなテーマの一つは「家族愛」であると思う。
仕方のない事だが、ホーエンハイムはお父様を家族としては見られずに逃げてしまった。
エドが人体練成を行った事や家を燃やした事に関してホーエンハイムは「どうして誰も叱ってやらなかった」「逃げたんだ」と言っていたが、ホーエンハイム自身がお父様を「叱れなかった」し「逃げた」からこそだよなーと思う。
お父様の時とプライドの時では状況は違いすぎるが、きっとブラッドレイ夫人はプライドになにかあっても逃げずに叱ってあげられる人でいてくれるだろうな。


お父様と別れた後に、ホーエンハイムは苦悩を抱えつつも旅自体を楽しめるゆとりは持てていた。でも引きこもりお父様は、ホーエンハイムが感じたような、新しいものや美しいものをみる事で心動かされる瞬間なんてのは生涯なかったんだろうな。
お父様は知識の宝庫みたいな真理から切り離された存在だから生まれながらに知識をたくさん持っていて、ホーエンハイムという人間の血をも得ていたから人間みたいな感情もあった。
でも経験はなにも積まなかった。だからこそお父様の真理の扉には何も描かれてなかった。
お父様の生涯とはなんだったのか。


表紙裏恒例の、死亡キャラ昇天図は27巻だけネタバレ防止のために描かれなかった。
もしもネタバレなんて気にしないぜとばかりにお父様が描かれていたとしたらどんな図になったんだろう。
お父様は、真理から生まれた存在であるため真理へと還った。
「自我を保ったままで永遠に縛りつけられる」のか「自我もなにもかも呑みこまれて元通りに真理そのものになる」のかはちょっとよくわからない。お父様への真理の言葉を見ると前者のような気もする。どちらにせよ、お父様は他の昇天図に登場するキャラのように「死亡」したわけではない。
死んだわけではないのなら、お父様は昇天図に登場できるキャラではなかったんだろうか?
そこの部分の処理を迷った結果として27巻では描かれなかった……というのは流石に邪推か。


ホーエンハイムは死んでトリシャのそばにいけた。でもお父様は、死んだわけではないからホーエンハイムのそばにも、ラストやグラトニーのもとにもいけない。現実世界で生き続けているわけではないからやり直しも利かない。
お父様がやってきた事を考えれば温情ある結末の迎えようがないのはわかるが、どうも同情的な目で見てしまって困る。
長文書いていると、自分から出た文のはずなのに、文に心が引きずられるというか、最初から同情的な視点だったがよりずっぷりと同情的になっていってしまう。不思議だ。

感想1→27巻の感想 1 - チラリとチラシの裏